私がこのような価値ある時計を身につけ続け、誰とでもシェアしようとすることに知り合いは皆驚いていた。価値の話になると、私はすぐにドイツ人の友人のことを思い出した。彼のように、あるいは自分の時計を大切するあまりその価値で頭がいっぱいの人のようにはなりたくなかったのだ。今でもそう思っている。これは私の時計であり、私の人生を象徴するものであり、私はこの時計でやりたいことをやろうと思っていた。そして、私がしたかったのは、この時計を徹底的に身につけることだったのだ。
この時計を身につけられることをとても誇りに思ったし、私がしているようなことをしている人はほかにはいないだろうと思った。ボルダリングをしているときにふと手首を見ると、5711が目に入り、私はこの時計と人生を最大限に楽しんでいるのだと微笑むのだ。やがて、ソーシャルメディアやイベントを通じて、私の活動を知ってくれる人が増えていった。
パテックフィリップ ティファニーブルー 「ノーチラス」Ref.5711/1A-018
自動巻き(Cal.26-330 SC)
30石
2万8800振動/時
パワーリザーブ約45時間
SSケース(直径40mm)
120m防水
ここ数年、いろいろな人から肯定的な言葉をたくさん聞いた。セイコーファンからスイスの大手時計メーカーの社長まで、誰もが私の5711でやっていることを見て、「時計収集の視点が変わった」と言ってくれたのだ。あるとき私は、人々が時計愛好家としてどうありたいかを正確にコントロールする力を与えていることに気づいた。このすばらしいオブジェを身につけることを恐れる必要はないだろう。そのためにあるのだから。
そして、それが私のマインドセットだった。私は自分自身に忠実であり、そのおかげでとても幸せな人生を送ってきた。
この物語がここで終わり、野外活動で傷だらけのノーチラスをつけた手で書き終えていればよかったのだが。残念ながら、そうではない。数年前の2018年、アメリカの主要都市で開催された時計イベントに参加した際、#TheLovedPatekはスーツの上着からスリに遭い、盗まれたのだ。
私は長いあいだ、このことを話すのをためらっていた。私が今まで持っていたなかで実際に最も価値のあるものがなくなり、今は盗まれた時計を売買する犯罪者の手に渡っているのだ。もし、希少な時計を盗まれたらどうすればいいのか、その手引きとなる本はない。この言葉のナイフは、時が経つにつれてさらに深く切れ込み、私の最も貴重な財産が価値を急上昇させ続け、我々の業界全体で最も貴重な時計となるのを目の当たりにしてきた。この時計は私のアイデンティティの一部であり、約8年間連れ添った相棒がいなくなったときには、本当にがっかりした。今、それは地球上のあるゆる所にある可能性がある。
でも、私は何か間違ったことをしたのだろうか? そうは思わない。今日、私は5711を身につけることができた約3000日間に感謝することにした。この時計と一緒に過ごした思い出や、この時計がきっかけで世界中に広がった友情は、今でも大切に思っている。盗まれたことは私の身に起こった最悪の出来事だが、大局的に見れば、人間にとってもっと悪いことがあるのだと思えば、感謝もできる。
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